境内の一室で、子龍は筆を執った。
ほこりを払った筆は、寺の古い蔵から持ち出したものだ。大層な封をされていたが、乱雑に解かれた包装があたりに散らばっている。
「さて、なんと書いたらいいものかな」
「言い訳をされませんよう」
後ろから、幽鬼のような声色が響いた。
子供を叱る父親の声色である。
「住職!いたのか!」
「来られると思いまして」
「君らはいつも僕の先回りをするな」
「日頃の行いでございます」
子龍が呻いた。
「では、僕はどう書けばいいか判るというのかい」
「ええ、お心のままに―――と云いたいところですが」
住職が目を開けていった。
子龍をとらえている。見える人もいるのだ。
「時間がありません、疾(はや)く彼らを返さねばなりません。幸い今日は祭りですから、そういった催しでしたという事で通じましょう。しかし、明日もいれば騒ぎになります」
住職が箱を差し出した。
子龍が中を開けると、小さな札が納められていた。
中の札の上半分には「令旨」と薄く書かれている。
「端的に、彼らにお伝えなさいませ、帰ってから報告すればよろしい。
文で言い訳しても仕方がございません」
「君たちはそうやっていつも僕をいじめる」
とこぼし乍(なが)ら、子龍は筆を執った。
急がねばならない。
彼らはすぐに隠された宝箱を見つけるだろう。
それまでに、この【お札】を完成させなければならない。
子龍は一息置いて、令旨に続けてこう書いた。
「宝は見つかった、帰還を願う」と。
武者たちがこれを見たときに浮かべる表情を思い浮かべ、子龍は顔をしかめた。
だって、そうだろう。
僕が彼らに伝えたかったことが、もう一度君たちと―――。
幕間5に続く