幕間4.境内の子龍

境内の一室で、子龍は筆を執った。

ほこりを払った筆は、寺の古い蔵から持ち出したものだ。大層な封をされていたが、乱雑に解かれた包装があたりに散らばっている。

「さて、なんと書いたらいいものかな」

「言い訳をされませんよう」

後ろから、幽鬼のような声色が響いた。

子供を叱る父親の声色である。

「住職!いたのか!」

「来られると思いまして」

「君らはいつも僕の先回りをするな」

「日頃の行いでございます」

子龍が呻いた。

「では、僕はどう書けばいいか判るというのかい」

「ええ、お心のままに―――と云いたいところですが」

住職が目を開けていった。

子龍をとらえている。見える人もいるのだ。

「時間がありません、疾(はや)く彼らを返さねばなりません。幸い今日は祭りですから、そういった催しでしたという事で通じましょう。しかし、明日もいれば騒ぎになります」

住職が箱を差し出した。

子龍が中を開けると、小さな札が納められていた。

中の札の上半分には「令旨」と薄く書かれている。

「端的に、彼らにお伝えなさいませ、帰ってから報告すればよろしい。

 文で言い訳しても仕方がございません」

「君たちはそうやっていつも僕をいじめる」

とこぼし乍(なが)ら、子龍は筆を執った。

急がねばならない。

彼らはすぐに隠された宝箱を見つけるだろう。

それまでに、この【お札】を完成させなければならない。

子龍は一息置いて、令旨に続けてこう書いた。

「宝は見つかった、帰還を願う」と。

武者たちがこれを見たときに浮かべる表情を思い浮かべ、子龍は顔をしかめた。

だって、そうだろう。

僕が彼らに伝えたかったことが、もう一度君たちと―――。

幕間5に続く