幕間3.女官

あなたが立ち去った後、女官の耳元で声がした。

「ごめんね、奥方様」

「いいえ、いつものことですから」

と目を閉じた女官が答えた。

女官にも子龍の姿が見えない。

彼を探して右往左往するのも失礼と考えての事だ。

「それで、今回は何をしちゃったんですか?」

「……昔を思い出してしまった」

母に問い詰められた子供のように、子龍は告げた。

「まだ生きていたころの、戦の合間に味わった甘味だ」

「あの頃に甘味などありましたか?」

「あったよ。今のような甘味ではなかったけれど」

「ああ、あの蜜のような」

「そう、屋台のりんご飴を見て思い出したんだ、あの、むかし味わった甘味をもう一度どこかで味わえないものかと思ったら―――」

「あの甲冑武者たちが現れたと」

子供はしょげて、女官が首をかしげる。

「では、かなりまずい状況ですねえ」

「ああ、今では【南北朝】と呼ばれる時代の甘味は、今は無い。

 彼らは無いものを探して彷徨っている、このままでは、ずっと彼らは彷徨い続けてしまう。しばらくすれば、菊池は【亡霊武者の町】として賑わうことだろう」

「それはちょっと」

「うん、だから、いや―――」

子供―――子龍が空を仰いだ。

「いやいや、待ってくれ」

「どうされたんです?」

「僕は勘違いしていたのかもしれない」

「甘味をお探しではなかったんですか?」

「それは間違いではないが―――いやいやいや」

「いやいやと申されても困ります」

女官が笑って言った。

「認められないだけでございましょう、解決策を考えておいでですね」

「ああ、彼らを返す方法が分かった、が」

「が?」

「笑われるだろうなあ、彼らに」

「いつもの事でございましょう」

「そうだった」

「であれば、急がれますよう。あなたの新しいお友達も頑張っておいでです」

「そうだな、ありがとう、奥方様」

「どうかご無事で」

含みをもって女官が云った。

幕間4に続く