菊池武者は、あなたが立ち去った後、境内にある階段に腰かけて一息ついた。
菊池武者は、かの子龍と共に戦を駆け抜けた武者の一人で、その家の侍大将を務めた男だった。戦上手と云われたその男だったが、腰かけた彼の表情はどこか子供に振り回される父親のようだった。本気で隠れた子供を、大人が探し当てることは難しい。
「よお、大将殿」
声を聴いて、菊池武者は振り向いた。
振り向いた先には、禿頭の笑顔。住職である。
「こんなところで、何をお探しで」
「ご存じでしょう、ご住職」
「やはり、今回の武者たちは子龍のしわざですかな」
「恐らくそうでしょう、見たことは無いが、あの鎧は菊池由来。あの人と関係がないとは思えません」
住職はふうむ、と考え込んで言った。
「彼らは何かを探しているように見えるね」
「皆目見当もつきません―――探し物があるなら手伝えればよいのですが、彼らには言葉も通じない。であれば、子龍を探すしかありません。まあ、それが一番難しいのですが」
「だろうね、君にも彼の姿は見えないのだろう?」
姿が見えない、と住職は口にした。
菊池武者はうなずいた。
「だから私たちにはきっと、彼を探し出すことはできません。
もちろん、他の人間であれば彼を見つけられるという意味でもない。
きっと、何か考えがあるのでしょう。
彼は何かをやろうとしている、そしてきっと、今、この隈府を歩いているあの者たちが、そのカギを握っている、私にはそう思えるのです」
「なかなか難儀な状況だ。あの子龍を助けたいと思う君だからこそ、彼を助けることができない」
「いつだってそういった役割でした、慣れています」
住職が菊池武者の肩をたたいて慰めた。
「大丈夫さ、彼らがきっと、子龍を見つけてくれる、それまで、君は君の役割を全うすればいい」
「そう願います。では、探し物を続けます」
菊池武者が言って立ち上がり、思いをはせた。
(子龍には、何か考えがあるのだろう)
生前から、どこかつかみどころのない人だった。
いたずらが好きで、いつも悪だくみをしており、誰かを罠にはめては大笑いするような人物だった―――が、それに悪意は全くなく、おまけに自分の罠にひっかかってしまうような人物で、それがよく愛されていた。
(きっと、今回も何か企んでおられるのだろう)
幕間3に続く