※この物語はフィクションです。
祭りが開かれている。
現代の、地域の祭りだ。
地域の歴史ある街並みに、風情ある懐かしい屋台と、現代特有のキッチンカーが数台。
今日の祭りは、ただの出店(でみせ)の集まりではないようで、いつもは閉じた能場が開き、その前で壮年の住民たちが酒を酌み交わしている。親子連れも多い。
宵の刻というには、やや明るい刻。
一人の子供がいた。
不思議な子供だった。齢は10前後だろう。
一人が似合う少年だった。
少年が身にまとう着物は、一目でそれが安物の着流しでないことが見て取れた。
淡い青の麻布で仕立てられた、涼やかな手織りの装いで、襟元と袖口には生成りの木綿糸でシンプルな縫い目が施されている。風が通り抜けるたびに、軽やかに裾がふわりと揺れ、麻独特のさらさらとした音が耳に心地よく響いた。
重々しいものではないが、一人歩く子供には不似合いに見えるはずが、違和感もない。
少年は祭りを一人歩いていたが、とある場所で足を止めた。
赤のキッチンカー。現代らしく飾り立ててはいたが、昔からある祭りの名物甘味「りんご飴」の店だった。
少年の目が細まった。昔を思い出したのだろう。
しばらくして、少年が目を開けた途端、場の雰囲気が一変した。
祭りを歩く人々は何も変わらない、が、少年の後ろにある石垣の中で、かすかな気配が立ち込めた。閉ざされた社の扉がきしむ音を立ててゆっくり開かれると、暗がりの中から甲冑をまとった武者がゆっくりと姿を現した。鎧は年季が入り、金具の一つ一つがサビつきながらも、かすかに古びた光を放っている。
鉄の面頬(めんぽう)から覗く顔は、白い霧のようにぼんやりとして、無表情に子供を見据えていた―――が、どこかその雰囲気は柔らかい。
少年は振り返り、ああ、とこぼした。
「まって。違うんだ、みんな」
鎧たちがうなずいた。
「委細承知」
すべて理解しています、という意味の言葉である。
あるいは、完全に勘違いしています、という意味でもある。
今回は後者であった。
少年が次の言葉を発する前に散開した彼らを前に、少年は顔に手を当てて呻いた。
「これだから、俺という奴は…」
少年の姿に合わない言葉だったという。
幕間2に続く